2021/02/02

コロナからほぼ一年が経ち、私も含め初期に騒いでいた人も少し落ち着いてきたと思うので、個人的な振り返りをしておこうと思う。どのような内容かというと博士号を持っているけれど公衆衛生など感染症に関わる学問の非専門家の教授(場合によっては医学が専門ですらない)の発言についての振り返りだ。

最初期にこのように非専門家(この場合は物理学者や数学者がメイン)はプレプリント(専門誌に掲載される前の段階の論文)サーバーにコロナの論文を載せるなという意見が載っていた(中にはこのような意見は間違いだという非専門家の教授もいたが、その後のK値などの影響を考えればこの教授の意見こそ間違いだったのだろうと思う)。

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私個人としてはこの意見には賛成だ。というのもtwitterなどのSNSで非専門家の不安や混乱を煽るような意見がことさら大きく取り上げられていたのを覚えているからだ。しかも残念なことに人によっては政府の会議に招聘された専門家の言うことよりもそのような非専門家を信じていた。こういった非専門家の情報発信の中でも特に不安や混乱を拡大させたものが二つあったので、それを書き留めておく(他にもあると思うが私の知識が偏っているので許してほしい)。

一つ目はSIR模型と呼ばれる常微分方程式のシミュレーションだ。この方程式は感染症をシンプルな形であらわしたもので場合によっては数値計算の教科書で練習問題として出てきてもおかしくないほど簡単な模型だ。コロナ禍の最初期(2020年の三月頃)にはこの方程式をいじるのがかなり流行っていたのを覚えている(機械学習や線形回帰の練習としてQiitaにこの模型の記事が出回っていた)。大体の人はこの模型で予測ができるとは思っておらず(現象論的な模型なので定性的な議論はできる予測には向いてないと私は思っている)、すでに出ているデータをフィッティングさせて「遊ぶ」ことで満足していたのだが、中にはこの模型を予想に役立てようと思っていた人もいた。とある大学教授はこの模型をいじって数値計算して出た結果を拡大解釈して世の中に発表した。この解釈は当時政府から招聘されていた西浦氏の8割接触を削減という提言とはぶつかる意見だったためか、マスメディアは何の専門家なのかよりも大学教授という肩書を重視する傾向があるためか、この解釈がメディアで取り上げられた。幸いにも別の大学教授達 (こちらも医学の専門家ではないが) がこの大学教授の数値計算に異議をだして少し議論になっていたようだ。結局、一年ほど経つがこの後にロックダウンなどのもっと衝撃的なことが起きて忘れ去られたらしく、このとある大学教授による数値計算の結果が正しかったのか評価・検討されたという話は残念ながらついぞ聞いていない。

さて、非専門家によるコロナの関わりの二つ目はK値と呼ばれるもので以前にもこのブログで書いたきがするが、これは大阪大学の物理学者が提案したもので、上記のSIR模型と同様に現象論的なものだ(個人的には収束期における感染者の指数的減衰や感染拡大期の感染者の指数的増加などSIR模型のある種の極限の要素を抜き出したものだと思っている)。マスメディアと同様に大学教授の肩書だけ信用したからだろうか、このK値は大阪府と神奈川県がなぜか正式に採用したらしく、二つの自治体の政策に大きくかかわっていた。K値の何が困ったものかというと、フィッティングがめちゃくちゃで必ず感染者が減少するようなグラフが出ることだ。このK値には熱心なファンもいるらしく、とある生物学の研究者はTwitterでこの予測を褒めたたえていたが、その後大阪、神奈川がどうなったかというのは2021年1月に非常事態宣言が出されたことからお察しということだろう。

さて、以上に非専門家によるコロナとの関わりを書いてきたが、最初に記載した非専門家は何もできることはないということに尽きているように思う。他の分野の人間が付け焼刃の知識で無責任に何か言ったところで余計な混乱をもたらすだけだと思う。実際、専門家の西浦氏の言うように8割の接触削減を目指したら第一波は抑えることができたのだから。どの分野にもかならず何か言わなきゃ気が済まない人間もいるので、専門家を大きく批判する人は出てくるだろうが、私個人としては専門家の言うことは尊重する態度を保ち続けたいものだと思っている。

最後に、以下に専門家による数理モデルの記事があったのでとりあえず載せておく。

www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp